『……っつ……ぅ……』

 千秋を
 抱き締めてやりたいと思った。

 だけど――

『ごめっ……もう、帰るね』

 いつもの明るい千秋じゃなくて、今にも壊れそうで、脆くて……怖くて。
 俺は、千秋の小さい後ろ姿をただ見ているしか出来なかった。


「――俺も帰ろう」

 小さくそう呟いて、俺は千秋に背を向けた。
 1歩、1歩、歩き出す。
 歩く度、歩く度、千秋が離れていく。
 家から家はそんなに遠くないのに、果てしなく千秋を遠く感じた。



『きゃあっ!!』



 その時、声が聞こえた。
 驚きと、恐怖に満ちた声。

「――――!!!!」

 俺は首が1回転しそうな勢いで振り向いた。
 微かに……駆ける足音が聞こえた。
 足音は近付いてくる。

 そして――

「千秋ッッ!!!」


『椿ぃッ!!!!』

 千秋が、涙で濡れた顔で俺に抱きついた。

「ちあっ……どうした!!?」

 千秋のただならぬ様子に、俺は動揺する。

『きょっ……すけがっ! わた……いやぁっ!!』

「千秋!! 落ち着け!!!」

 千秋はひどく取り乱している。

『京介が居るの……ッ!!』