「おいっ!! 大丈夫か!?」

 俺は京介の肩を掴み揺すった。

『…………っ』

 京介は俯いた。

『一瞬……何かが見えた』

「何かが?」

『手……みたいなの』

 手?

『お母さんの手じゃないの?』

 千秋が聞いた。

 俺も丁度、そう思っていたところだ。

『いいや、違う……違う方向から伸びてた。それに……』

「それに?」

『爪が……鋭くて、長い爪が』

 京介は小さく肩を震わせた。

『母ちゃん……を引き裂いて』

 京介の目に涙が滲んだ。
 俺はどうしようも出来ない、悔しい気持ちになった。 

 “元気だせ”とか
 どこかで聞いたような慰めの言葉しか頭に浮かばない。
 安っぽい慰めは、余計に相手を傷つける。
 俺にだってそれくらい分かる。

 だから、困ってるんだ。
 俺は親友が泣いてるのに、ただ黙ってるしか出来ないのか?

 俺の心の中は、雨の日の黒い雲のようにもやもやしていた。