『昨日家に帰った時は、母ちゃんいつも通りだったんだ』

 京介は、覇気の無い声で話し始めた。

『だから俺ほっとして、自分の部屋で寛いでた。そしたら……』

「そしたら……?」

 俺は先を促すように言った。
 人間というのは、こういう類の話に興味を持つものだ。
 恐怖心と好奇心の間で揺れる心。
 親友の深刻な話なのに、俺はその2つの感情を天秤にかけている。
 そして、好奇心が勝っている。
 従って、先を促すような言葉を言ってしまうのだ。

『悲鳴聞こえた……か、母ちゃんの』

 京介の瞳が悲しげに揺れた。

『母ちゃん……何かに怯えてて』

「何かに?」

『ああ、それで俺を見た。そして“助けて”と言って……』

 京介は言葉を詰まらせた。


『消えたんだ……』

 その場から、忽然と。
 今まで存在しなかったかのように。
 消滅した。
 ふと、瞬きを1つした間に。

『信じられるか……? 消えたんだぞ? パッて。一瞬で』

 京介は、笑った。

『突然過ぎて涙も出ねぇよ……!』

 京介は、声を出して笑った。

 その笑いは、京介が狂ったようで怖かった。