「話したいことって、何?」


彼は視線を足元に落とし、ぼそっとつぶいた。

「引越ししたんだ、うち」

「…え?」


「同じ都内だから、転校とか、そんな大げさなもんじゃないんだけど」

「…う、ん」


「そんでバス通になっちゃってさ、いつもの電車に乗れなくなったんだ」

「……えっと、あの。…それが、私に話したいこと?」


「じゃなくて!」


彼は私の方にくるりと向き直り、少し緊張した表情で私の目を見た。


彼の手の熱さが、繋いだままの私の手にじんわりと伝わってきた。


「クイズ。毎朝電車で熟睡してるはずの俺が、あんたが乗ってくる駅を知ってたのはなぜでしょう?」