「おはよう!」


いつものように


家へ迎えに来る親友に

寝起きでまだ目が覚めない健(たける)は
欠伸混じりに

おう

とだけ返した



二人並んで

坂道を歩く

春にはこの桜に囲まれた道は

真ピンクに染まるのだ




健は
高校2年になる春を迎えた

見上げても

見下ろしても

一面 ピンク色に染まったこの道で
また

新たな時が始まるのだと
目を細めた



どんなに
時が進んでも
居場所が変わっても
一つだけ

たった一つだけ

変わらないモノがある



「健〜


俺達

また同じクラスかな〜?」



健の親友

裕介(ゆうすけ)は

にへらと緩い笑顔で
健の顔を覗き込んだ

二人は
生まれたときから
ずっと隣同士

同じ産婦人科の病院で
1日違いで生まれた
幼馴染みだ

母親同士入院中に意気投合し
住む家も近くだったため
幼稚園時代から
ずっと同じクラスで
ずっと一緒に過ごしてきた
大親友


「…さーな、
もう流石にいいけどなぁ
お前と一緒は」

「えー!
俺は健と一緒がいいのに!」

健の物言いに不服そうに唇を尖らせる裕介



健は
フン、と口端を釣り上げただけで
鼻で笑い飛ばし

歩く速度を早めた





桜の花弁がひらひらと舞い降りる桜坂
後から追いかけてきて
頭を小突いてくる裕介の攻撃を受けながら


変わらないやりとり
変わらない距離に


思わず 自嘲の笑みが零れた





どんなに

供に いようとも

この距離が変わることなんてない




―ー-… 俺達は

"親友"

なのだから