ああくそ、苛々する。


「目の前で死なれるのは嫌。」


そう言って、女は俺の元へ歩いてくる。



「・・・来んじゃねえよ・・・。」

ぴたり

そいつは柵を隔てて、俺の前で立ち止まった。

何も知らない澄んだ瞳が、俺を見上げる。


「・・・・何で死のうとするの?」


うるさい、うるさい

その目が、気にくわない。
その目は何故か、無償に俺の心を掻き立てた。


「お前に俺の気持ちが分かんのか。」


ガシャン!

「・・・・っ!」


「分かんのかよ!!?」


昂る感情のまま、俺は柵から身を乗り出してそいつの襟を掴み上げた。

苦し気に女は表情を歪める。

さっきみたいな飄々とした目が見たくなくて



―――潰したくて、


駆り立てられるまま、そいつを掴み上げたのに・・・・


「チッ・・・・・」



その目が、歪んだ瞬間


無償に、それが見たくなくなった。

怒りではなく、これは


罪悪感・・・・・?



「・・・・っ・・・・・!」


「う・・・・っ」


ああ、そうか。



こいつの目は



母親に


母さんに



――――そっくりなんだ。


「・・・・あな、た、・・・は」


途切れ途切れに、女は口を開いた。

首を絞める俺の手に、小さくて暖かい手が重ねられる。

女は辛うじて息を吐き出すと



「―――死ぬために、生まれてきたんじゃない・・・・・!」



「―――っ!」



「・・・・生きる、ために・・・・生まれてきたんでしょ・・・・!」


目を見開き、苦し気に、必死に言葉を紡ぐ女を見た。


――――――同じだ。