ああ、やめろ。そんなことをしても無駄だ。俺は生きなければならない。


でも、もう限界なんだ。全てが苦しい。もういっそ楽になろう。




カシャン


柵を乗り越え、足元を見る。


下から風が吹き抜けるように、俺の頬を撫でた。


気が遠くなりそうな光景に、心拍数が一気に上がる。


死と、直面したようだった。

底知れぬ恐怖が、背筋を冷やしていく。


このまま、後は体を傾けて重力に従うだけ。


それだけで俺は――――




「何・・・してるの?」


―――そこに、凛とした声が耳に響く。



・・・・・最悪だ。


これは声からして明らかに女。

まあ、少し睨んだら帰るよな。

邪魔されたことに若干憤りを感じた俺は、その感情をそのままぶつけるように後ろを振り返った。


「っせーな・・・殺すぞ。」


そこにいたのは、まだ中学生くらいの少女。


黒曜石のような瞳には、先程暴言と共に睨んだのに、恐怖が全く映ってなかった。

ただ冬の湖のように静かで澄んでいる。



「・・・・貴方は、何をそんなに怯えているの?」


ふいに、そいつは俺に聞いた。


一瞬、息が詰まるように感じる。

・・・・・・・心を、掴まれたようだった。


「・・・・・お前に、関係ないだろ。」


「・・・・無いけど、貴方死ぬつもりでしょ?」