「―――男の、匂いがするんです。」


「・・・・・は・・・・!!?」


思いっきりひっぱたいてやろうと手を上げた瞬間、希彩が顔を離して呟いた。


「・・・・・・凱那さんから、男の匂いがします。いつもの凱那さんの匂いじゃない。」



もしかして、匂う、ってそう言うこと・・・・!?



「あ、当たり前じゃない!剣道部なんだからそりゃ、男だっているわよ!!」


「―――違います。」


「はあ・・・!?」



何が言いたいのよ、こいつ!
未だに肩に頭乗せてやがるし・・・・!!


「―――とにかく!離れてったら!」


ごす、と手を振り下ろす代わりに肘を希彩の頭に押し付ける。


「どいて!私帰るの!」

そう言うと、

「―――・・・・ムカつくな。」

くぐもった声で希彩が何かを呟いた気がした。


「何よ!ハッキリ喋んなさい!」


「――――凱那さん。」


「え。」


かと思えば、急にハッキリとした口調になり、顔を上げて私を見下ろす。

いつものヘラヘラ笑った顔は何処へ


目の前には随分と綺麗な顔立ちでキリリとしちゃってる希彩。

「・・・・・な、何よ。」


「・・・・・・・」


何かを耐えるような表情で、ただ黙って私を見つめ続け、

「・・・・・・どうしたの。」


微妙な沈黙の後、



「――・・・・・僕、車止めてあるんで、凱那さんを家まで送りますよぉ。」


へらっ



「・・・・・は?」



いつものヘラヘラ顔に戻って、緩く微笑んだ。