「いらっしゃいませ...」
いつものようにやる気の無い声で、お客の顔を見ることもなく、カゴの中の商品をスキャンする。
「...5点で525円になります...袋詰めのご協力願います...」
ビニール袋をかごに入れ、お客もいちいち俺の言葉に反応もしない金を払う。ホント流れ作業のよう。
「...丁度お預かりします...ありがとうございました...」
たいていのお客はレシートを受け取らずにそのまま無言で帰っていく。
面倒くさい事が嫌いな俺には快適な仕事。
100均の店だから、計算も楽だし、細かい釣りを出す事もほとんどない。
しいて嫌なところをあげるならば。
お客のほとんどがおばさん・・って事くらい。
「林く~ん!悪いけどカボチャ関係の品、出してもらえる??」
「あ、はぁ~~い」
店長の声にもやる気の無い声で返事。
店の裏に入って、頼まれた商品のダンボールを探す。
もうすぐハロウィンだから、ハロウィン用の雑貨を店の入り口に並べるらしい。
ハロウィンだからって、世の中の奴等は何を張り切るんだ?
っつうか、ハロウィンって何すんの?
カッターナイフでダンボールを開けて、すでにハロウィン仕様になっている棚に商品を並べていく。
俺が並べてる最中にも、「あぁ!ハロウィンのが出てる!」と、何人かのお客がカボチャのなにやらを買っていく・・・
そんなお客を横目に黙々と商品を出す。
通路はさんで向こうの棚にはクリスマス用品・・・
店の倉庫にはお正月用品・・・
季節感あるのかないのか・・・
「あの...すみません」
そんな事を考えていると後ろから声を掛けられた。
「...はい?」
振り返ると一人の女性が立っていた。
小柄でストレートのロングヘアー。
化粧ッ気も無くて、パッと見、地味・・・な部類。
「...あの、ハロウィンの商品ってココだけですか?」
「あぁ...はい。今出してる分だけです...」
その女性は陳列棚を一通り見て、「そうですか...わかりました。ありがとうございます」
と、違う売り場に行った。
俺は「すみません...」とだけ言ってまた品出しを始めた。
品出しを終えて、またレジ打ちの仕事に戻る。
数人のお客をこなして、一息ついた頃にレジ台にカゴを置かれて、またお客がレジに並んだ事に気付く。
そして、またお客の顔を見ることなく、「いらっしゃいませ...」
いつもならお客の顔なんていちいち見ないし、覚える事もないんだけど・・・
今並んでるお客が、さっきの地味な女性だとわかった。
化粧ッ気がないけど、なんとなく可愛らしい・・・というか、綺麗というか・・・
もっと、オシャレしたらめちゃくちゃ可愛いだろうに・・・
「3点で...315円になります...」
その女性は可愛らしいキャラクターの財布から315円調度を取り出した。
どこかのブランド物の財布ではなく、小学生や幼稚園の子が持っててもいいような財布に驚いた。
「...丁度お預かりします...」
いつもなら、“袋詰めお願いします”と、各自で袋詰めさせるんだけど・・・
なんとなく・・・3点だけだし・・・
俺は3点を袋に入れて手渡した。
手渡したついでに・・・
「...さっきは何を探してたんですか?」
そんな事を口にしていた。
「え...?あ...」
突然俺が話し掛けたからか、その人は驚いていた。
「あの...ハロウィンの...」と、言いかけた時、
「ねぇ...早く帰ろうよ...」
その人の後ろからひょこっと5歳くらいの女の子が姿をあらわした。
「あ...うん。そうだね。あ...じゃぁ。」
その人は俺に軽く会釈をして女の子に引っ張られるようにして店を出て行った。
・・・子持ち?!?!
マジで?!?!
そんな歳には見えなかったけど・・・
えーーーーーーマジ?!?!
だって、絶対俺くらいの歳かと思ったし・・・
**********
次の日の学校帰り・・・
俺は同じクラスのツレ・・・洋太と駅に向かっていた。
「...なぁ、智也。お前今日なんか変じゃね?」
「あぁ?そっか?」
「心ここにあらず...だぞ?」
・・・そう。
昨日のあの人との事があってから、なんだかあの人が頭から離れない。
あんな若いのに、子供がいる。
・・・若く見えて実は普通に20代半ば超えてたりして・・・
「あっっっ!!」
そんな事を考えていたら突然洋太が大声を出した。
「おい、急に叫ぶなよ。ビビんじゃん。」
そんな俺を無視して、洋太はまた叫んだ。
「由美ーーーー!!おーーーーい!!こっちこっち!!」
駅前という事もあって、俺らのまわりの人がその洋太の声に反応してジロジロ見てくる。
「お、おい...声でかすぎ...」
そう言いながら、洋太がブンブン手を振る相手“由美”に視線をやった。