あたしの名前をそんな優しく呼ばれたら、松田さんと視線を合わさないなんて…… できるはずがない。


「そんなかわいいお願いなら、いくらでも聞いてあげるよ」


か、かわいいッッ!!

このお願いが、かわいいの?

あたしはわがままだと思ったのに。

――― 松田さんは違うの?


「本当はさ、ここに来る途中でも繋ぎたかったんだ」


あっ、松田さんと同じ気持ちだ。


「でも、紗雪ちゃん。 今まであまり男の人と付き合ったこと無かったって美春先輩が言っていたし……」


言っていたし…… ?


それだけ言って、松田さんは俯いた。

なにかあるんだろうか……。


「松田さん?」


「……」


あたしの手を優しく包み込んでいた松田さんの手に力が入った。


「美春先輩と約束したんだ」


「約束、ですか?」


「そう、約束したんだ。

“紗雪ちゃんの嫌がることはしない。
紗雪ちゃんに手を出さない”」


「…… はっ?」