「俺は別に森口なんて好きじゃないからな」

ふて腐れて、机から4時限目の英語の教科書を引っ張り出す。

ヤスはウヒャヒャツと不気味に笑った。

「俺は森口だなんて一言も言ってないけど?
へーヒロって森口が好きなんだ?
結構マニアック………」

「…………」

俺は無言でヤスの頭を教科書の角でどついた。

ゴツといい手応えがして、ヤスは「げふっ」とくぐもった声をあげ、のけ反った。

「イタッ何すんだよ暴力反対!!」

涙目でうずくまりながら、額を押さえ騒ぐヤスを無視して、俺は森口の席に目を走らせた。

彼女は教科書を揃え机の端に置くと、カタンッと席を立ちあがった。

一瞬、

こっちを見た気がした。

でも、分厚い眼鏡が邪魔して、実際には彼女の視線の行方はよくわからなかった。

そのまま、教室を出ていく。

その後ろ姿を横目に見ながら、俺は頬杖をついた。