「………お前、誰だ?」

唇が重なる直前に、俺は両手で森口の肩を押して引き剥がした。

眉を寄せ、目の前の女を見下ろす。

姿形は間違いなく、森口本人だ。

でも違う。

決定的に何かが違う。

……まさか、藤森アンナの意識が前に出てるのか?

そう考えて、でもそれも違うと否定する。


藤森アンナは根っからのお嬢様でプライドが高い。

こんな男に媚びを売るような真似するはずがない。


だったら………。


クスリ、と女は笑いを漏らした。

クスクスクス、耳障りな押さえた笑い。

「片桐くんて、ウケるね」

あははははは。

高笑いしながら、彼女はするりと首から腕を外して俺から離れた。

「バレちゃったら仕方ない」

眼鏡を外して、ミツアミをほどく。

ウェーブがかった髪が肩に広がった。

彼女は唇の端に眼鏡の先セルをくわえながら、上目遣いに俺を見た。

唇が紅くて妙に色っぽい。

森口と同じ容姿なのに。

Aカップなのに。(←結構こだわる)

「よく気付きました。
おめでとう。
私を見つけられたのは、妖怪バハアと貴方だけよ」

眼鏡を胸のポケットにしまい、嘲るように拍手する。

「………なんだよそれ。
一体……お前、誰なんだよ?」

強張った顔で尋ねると、彼女は小首を傾げて、口を開いた。

「私?
私はレイナ
藤森アンナの交代人格?ってヤツ」