『カンナちゃんは消えないといけない』

松宮の言葉に、俺はすっと身体が冷えるのを感じた。

呆然と立ち尽くす俺を、困ったように見て、松宮は続けた。

『……宗家がそれを望んでるんだ。
一つの身体に、一人の人格。
それが、然るべき人間の姿だと』

『……望んだからって、……消えれるもんなのかよ?』

喉がカラカラに乾いて、しゃがれたような声が出た。

頭がぐるぐるして、思考が追い付かない。

森口がどんな存在なのか、まだ、俺にはよく理解出来ない。

ただ、解るのは。

アイツは、生きてるってことだ。

赤くなったり、青くなったり。

怯えたり、泣いたり、誤りたおしたり、逃走したり。

………まあ、ハートフルな思い出はほとんどないけど。

アイツは生きてる。

夢でも幻でもあり得ない。

俺の目の前に確かに存在してる。

なのに……。

『……人格を消したり統合したりってことが、簡単にできるのか、僕にもよく分からない。
この病気な治療方法は様々で、統一性がないんだ。

悪魔払い的な方法だったり、カウンセリングでトラウマを解消したり、催眠暗示をかけたり、まあ挙げればキリがないけどね。

ただ、カンナちゃんにとって宗家の言葉は絶対なんだよ。

彼女が宗家に反抗することはない。

だから、彼女自身が言い出したんだ。

今度の『蝶の道行』の公演が終わったら、アンナちゃんの中から消えると。

もう永久に現れない、とね』