両親が正式に離婚することになって、私の生活は一変した。離婚の原因は、母親が店の客だった若い男とくっついちゃったから。突然私を連れて家を飛び出して、その男の元に転がり込んだってわけ。その男が今一緒に暮らしてるクソ男。名前は新田孝弘(ニッタ タカヒロ)29歳。何だかよく分からない仕事をしていて、昼いない時もあれば夜出掛けて朝帰って来ることもある。多分私の予想だと、合法ドラックの売買をやってるみたい。よく電話でその話をしてる。うちにもそのドラックがあって、それをタバコみたいに吸うと新田も母親もテンションが上がっておかしくなる。目が普通じゃない。
怖がってる私のことなんか見えないみたいに、テンションが上がった2人は、隣の部屋の万年床でsexを始める。最初の頃私は耳を塞ぐのが精一杯だった。
母親のそんな姿を見たい子供なんている訳ない。でも今となってはただ黙って部屋の隅に座ってられるまでになった。慣れって怖い。
私が新田と始めて会ったのは、そう。母親が私を連れて家を出た日。
電車を2つ乗り継いで、1時間半くらいで駅に着いた。そこから15分位は歩いたと思う。夏だったから暑くてしんどくて、汗が止まらなかった。
私はピンクの花柄のキャミソールにジーンズ生地のショートパンツ、ビーサンというプールに行くみたいな格好だった。母親はボーダーのマキシワンピにヒールのサンダル、サングラスをかけていた。長い茶髪が暑そうで、何度も掻き上げていた。
途中あまりにも暑いから、母親が自販機でジュースを買ってくれた。それを飲みながら母親が
「もうすぐおじさんの家に着くから。おじさんの言うこと聞いてよ。」と言った。
「これからおじさんと3人で暮らすの?」
私が聞くと
「そう。あんたのことも引きとってくれたんだから、あんたはこれからご飯作ったり洗濯したり掃除したりしてね。もう学校はあんまり行かなくていいから。」
と平然と言った。
「学校、転校したの?ここも東京?」
「そう。もう前のところに帰ることはないからね。ここもまだ東京だよ。」
もう友達にも会えないんだ・・・みんな何て思ってるんだろう。部活も大会が近いのにな。なんて思って、寂しいし戸惑っていたけど、母親にはそれ以上何も言えなかった。
ここ最近母親と2人でちゃんと話すことが無かったこともあって、何だか不自然だったから。