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私のこの手……
冷たくなったこの手を暖めてくれた手は、もうない
一人はイヤ
願う事は、いつもただ一つ
アナタに逢いたい……
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やっと見つけた
もう、絶対に逃がさない
泣き叫んでも離してやんない
恨んで、憎んで、絶望すればいい
そうすれば……
死ぬまで貴方は俺のことだけ想ってる
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12月、雪のちらつく灰色の空の下。
海岸沿いを歩く砂浜の足跡は、私だけ。
そりゃそうだよね。
こんな寒い中そうそう海には来ないよ。
家から電車で一時間。
海が見たくなり勢いで来てしまった。
時刻は13時。
人一人いない中で、私は海を眺めてる。
「……明日からどうしよう…」
呟いた言葉は
風と波の音にかき消された。
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――――――――――……
「うそ…っ!」
会社に行くとスーツ姿の社員が正面玄関に集まっていた。
何やらざわざわ、叫び声まで聞こえてくる。
――なんだろ…?
「急にそんな事言われてもっ」
「社長はどこだ!」
怒鳴り声まで聞こえてきて不安になり、足早に向かうと。
「あっ優ちゃん!こっち!」
同じ部署の石塚くんが人混みをかき分け、私を手招きした。
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「会社が昨日付けで倒産だって!
今みんなで専務と部長に事情聞くために連絡してるんだけど連絡取れなくて」
彼は「奥さんに知らせなきゃ」と、慌てて電話をしに人混みから抜けて出ていった。
私は何がなんだか分からないまま、自動ドアに貼り付けられた紙をただ見つめていた。
……2年勤めた会社が、倒産。
突然の解雇に為すすべもなく……気づけば、1ヶ月経っていた。
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「……はぁ…」
もう、溜め息しか出ないよ…。
新しい働き口も見つからない。アパートの家賃も来月は遅らせてもらうしかないかな……。
「……寒い…」
自然に砂浜に座り込んでた。
「…………」
海はどこまでも灰色。
波打ち際でさえも泡立ってて、冷たい。
雪も綿のようにふわふわ飛んでいた。
……不意にそっと、胸に手を当てる。
まだ大丈夫。
私は、生きてる。
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「……おいっ」
グイッ
「っひやぁ!」
突然掴まれた左腕。
そのまま腕を上に持ち上げられ、慌てて振り向くと。
そこには、メガネを掛けて眉間にしわを寄せてる男がいた。
「……あんた…」
何か言いかけたのを口に手を当て、顔を横に向ける。
……知り合い?
私は知らないよ、ね?
私が頭の中で必死に記憶をたぐり寄せてる時に、ふと左腕に違和感。
視線を左下に移すと、彼の手が私の腕を掴んだまま、
「あっ!すま…すみませんっ」
気付いたのか、慌てて手を離した。
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「……いえ…」
私もどう返していいか分からず、よく分からない対応になる。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
しかも…何?この空気。
「あの…何か用かな?」
彼は口元に手を当てながら目はキョロキョロ。
一瞬その瞳を閉じたと思ったら、意を決したように息を吸い、私に目を合わせた。
「ごめんなさい。驚かすつもりは無かったんです」
男性は申し訳無さそうに眉を下げる。
「女性一人、こんな場所に座り込んでたからちょっと心配になって……すみませんでした」
「ううん、大丈夫。
誰もいないと思ってからちょっとびっくりした……だけ」
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