2人きりになった教室には 夕日が入り込んでいた

由香は時計をみる。



−もう時間がない−



由香は勇樹の背中に自分の背中を くっつけた。

由香の位置からは もちろん 勇樹の表情は見えない。
しかし 恥ずかしさも後ろめたさも無かった。



「私ね? もう終わりなの。」
勇樹は何も言わない。
「もう。時間がないの」
まだ何も言わない。
「・・・好き。」
勇樹は驚いたようだった
しかし由香は 振り返らず教室をでた。

教室を出た由香は そっと勇樹を見てみた。
しかし 勇樹は振り返る様子もない。


涙が頬をつたう。


−やっぱりダメか−


自分の手を見ると 透けていくのがわかった。






その時 廊下の突き当たりにある 非常口ドアが ”向こう” への入口となった。


そのドアに近づくたびに 自分の体が透けていくのがわかった。


「由香!」


後一歩で消える。そんな時 勇樹が呼び止めた。

(何?)

声を発したかったが もう手遅れだった。
抱き着きたかったが もう手遅れだった。




もう 自分には何もできない。





「俺も・・・俺も好き!由香の事大好き!」








”最後”の満面の笑みをみせた由香の頬を ”最後”の涙が流れた。