「悲しいことでもあったの?」


離れたところに立っていたはずの少女が話しかけてくる。


だが、私は他人にこんなところを見られたくなかった。


その瞬間に扉が開き、後ろから他人(ひと)が流れ出してくる。


「何でもない!」


私は強く言い切ると、その雑踏に向かってあるき出した。


流れ出る涙を抑えながら、必死に歩く。


それでも、私の目の前に広がる世界は歪んでいた。


「無理しない方が良いよ!」


突然、先程の少女が私の肩に手を添えながら話しかけてきた。


「ほら、そこ座ろ?」


駅前の広場のベンチを指差し、私の腕を引っ張りながら歩く。


「フフッ、あたし、こんな感じが大好きなんだ!」


ベンチに座ると、少女は心からくつろいだ顔で呟く。


そんな顔を見ていると、タマの顔がまたしても被った。


「そっか…」


私は呟いて、ゆっくりと上を向く。涙が溢れないように。


「今日はあたしの好きな所を案内するね!」


少女が私を励まそうと明るく言い、立ち上がる。そして、私を引っ張るようにして大通りの方へと足を進めていった。


まず着いたのは、有名なファストフード店だった。


「お腹空いたからさ。朝から何にも食べてないんだ!」


少女が照れた顔をしながら笑う。そうして、言い訳をした後にハンバーガーにかぶりついた。


実に美味しそうに食べる少女につられて、私もポテトを口に放り込む。


そんなとき、ふと脳裏にタマとの思い出がよみがえってきた。


私が月末に金欠になり、毎日このファストフード店ばかりで食事を済ませていたとき、タマと公園で一緒に食べていたのだ。


そう考えていると、ポテトを食べる手が止まった。