「怒ってるように見えるか?」

「うん・・・」

「なら怒ってんだよ」

「なにに」

「分かんねぇか? じゃぁ分からせようか?」

 
 口角が上がった。

 ・・・ヤバイ!


 浩貴の口角が上がるのは、何かの合図だ。


 何か、たくらんだような時とか。

 ろくでもないことする時とか。


 とにかくよくないことが起こる前兆だ。



 逃げようと思っても、腕はコイツにつかまれてるわけで。

 すっごい力で。


「・・・離して」

「ヤダね」

「・・・今日帰って、好きな俳優さんの出るドラマ見なきゃいけないの」

 バレバレと分かる嘘をついた。


「アホ」

 そんなの浩貴にすぐバレた。

 とにかく離してほしいんだ。


「・・・お願い、離して」


 ヤダ。


 よりによってその手でつかまないで。


 副会長の指を包んだ手で。



「は、離せこのアホ!」


 言葉と一緒に、足まで出てしまった。


 出すつもりは多分なかったのに。