「では朱音殿、帰るところはおありかね」

あるに決まってる。

早く家に帰らなきゃ。お母さんもお父さんもきっと心配してる。

でもここがどこだかわからなかったら、どうやって帰ったらいいのかもわからない。

それに、もしかしたら。

再度浮かんできた予想に、私は頭が真っ白になりそうだった。

「大丈夫かね」

はっとして顔を上げると、くらっとした。

座っているのに、貧血を起こしたような感覚がした。

「そなたさえよければ、好きなだけここにいるといい。ゆっくり休んで心が落ち着いたら、また話を聞かせてくれ」

そんな優しい言葉をかけられて、私はまた泣きそうになってしまった。

「私はこの屋敷の当主であり、守護大名の咲里成政だ。何かあったら、遠慮なく呼ぶといい」

そう言って成政さんは、静かに部屋を出て行った。

私は最後の言葉が衝撃的で、声が出なかった。

守護大名ってやっぱり。

涙だって、引っ込んでしまった。

やっぱり、信じられないけど、そうなのかもしれない。

私は茫然とする以外、何もできなかった。





まさか本当に、ここが戦国時代だなんて。