「あの、ここはどこなんですか」

顔を上げると、成政さんと目が合った。

そうしたらどうしてか、一気に言葉が溢れて止まらなくなってしまった。

「私、音楽室へ行く途中だったんです。なのになんでこんなとこにいるのか、自分でも何がなんだかわかんなくてっ……ここはどこなんですか? 私、どうしてこんなところに」

私がはっとして成政さんを見ると、成政さんは訳がわからないって顔をしていた。

「ここは咲里(さきさと)の屋敷なのだがな。そなたがどのようにしてここに来たのかは何とも」

咲里さんの家っていうことなんだろうか。

そんな名字、聞いたことない。

階段から落ちて気を失って、知らない家に運び込まれたの? 保健室じゃなくて?

そんなわけない。

だいたい、さっきから変だ。

出てくる人みんな着物着てるし、この家だって、何だか時代劇に出てきそうな感じだ。

ふと頭に浮かんだ一つの予想に、私はぎくっとした。

そんなばかな。

そんなこと、あるわけない。

「そなた、名はなんと申すのかね」

「あ、佐藤朱音、ですけど」

「そうか」

私の答えに、成政さんはなぜか少し残念そうな顔をしたような気がした。