低くて、落ち着いた声だった。

部屋に入ってきたのは、年配そうな藤森さんよりも少し若い男の人だった。

「短刀を下げなさい」

穏やかだけど、嫌とは言わせないような雰囲気が伝わってきた。彼もそれを感じたみたいで、仕方なくといった感じで短刀を懐にしまいこんだ。

「藤森、朝乃(あさの)、速水、下がりなさい。私はその娘と話をする」

女の人と藤森さんは頭を下げて立ち上がろうとしたけれど、速水さんって男の人は納得できないみたいだった。

「ですが成政(なりまさ)様っ」

「大丈夫だ。何かあればすぐに呼ぶ」

速水さんは顔をしかめたけど、それ以上何も言うことはできずに、「失礼します」と言って部屋を出て行った。

「さて」

成政さんは近くへ来て座り込んだ。さっきの速水さんのこともあって、私は思わず身を引いてしまった。

「警戒せずともよい。そなたと話がしたいだけだ」

そう言って成政さんは、にっこりと笑いかけてくれた。

不安が全部なくなったわけじゃないけど、ちょっとだけ落ち着いたような気がした。

「昨夜そなたが我が屋敷の庭で倒れていたのを見回りの者が見つけたのだが、一体どのようにしてここまで来られたのかね」

どのようにして、って言われても。

私だってわからない。だって目を覚ましたらここにいたんだから。

恵美と、音楽室へ行くところだった。急がなきゃ皆の前で歌わさせられると思って、慌てて階段を駆け上がってたら、男の子とぶつかった。

そこから先は覚えていない。

だけど成政さんは、私は庭で倒れてたって言っている。