校庭が見渡せる窓があるこの廊下を歩いていると、いつもつい足を止めてしまう。

校庭を囲むように植えられている桜が今満開で、とても綺麗だからだ。

「ねえねえ、綺麗だよね、桜」

「あんたほんとに桜好きよね」

恵美に冷めた反応をされるのはいつものことだ。まあ、私がここを通るたびに同じことを言うからかもしれないけれど。

でも、本当に綺麗だからしょうがない。

風が吹いて、花びらがぱあっと舞うところなんて本当に綺麗で、でもなんかちょっとだけ切ない。

窓の外を見つつ、ぼんやりと歩いていた私に、恵美が突然声を上げた。

「ちょっと! あと二分で授業始まるよ!」

「えっ! 嘘!」

恵美のあとを追いかけて、私も慌てて走り出した。

そして急いで階段を駆け上がる。疲れたなんて、そんなこと気にしてなんかいられない。

遅刻したらみんなの前で歌わさせられちゃうからだ。

半分くらいまで上ったとき、上から下りてきた二人の男子とすれ違った。

「なーに言ってんだよ、お前」

男子の一人がそう言って、もう一人の男子をどんっと押した。

そして。

「わっ」

押された男子の身体がどしっと私にぶつかって、そのときなんだか、びりっと電気が走るような、不思議な感覚がした。

左足が、ずるっと階段からずり落ちる。

――落ちる!

「朱音!」

恵美の叫び声が聞こえた。





私の記憶は、そこで途切れてしまった。