「相手が…」


「ん??」


「相手の名前が…」


「……」


「“れい”って人だったの…」


「…優波……」


「私ね、もう1回先輩に逢いたい…」


そうだ…


私はずっと、先輩に逢いたかったんだ。



大好きな人を手放す苦しさ。


大好きな人に逢えない苦しさ。


そして…


悲しさ。


先輩が私にくれたものは数えきれない。


でも、私が先輩にあげたものって…何だったのかな??


私が先輩にあげたのは、


我が儘な私。


別れを押しつけた私。


…悲しいものばかり。



「でも、ほら!!その人、零先輩とは別人かも…だし!?」


「大丈夫だって!!心配しなくても」


「……ね??」


和奈は必死に私を勇気づけようとしている。


「ありがと…和奈」


「なにかあった時は、必ず協力する!!」


私は前に進むことを決めた。


止まるのではなく、振りかえるのでもなく。


ただひたすら前に進もうと。


和奈という、大好きな親友の、大きな力を借りて。



「よしっ!これで全員だな??」


観賞サークルを仕切っている尾野 尚幸(オノ タカユキ)先輩。


尾野先輩は人数確認をしてから、私達に目を向けた。


「次のサークル内容は、観賞にちなんで“観戦”」


先輩がそう言うと、


「「おぉっ!!」」


…みんなの目が変わった。


そんな皆には触れずに、先輩は続ける。



「今回は、サッカー観戦に決まり!!」


その瞬間、みんなの目はキラキラと輝いた。


…何このサークル。


あまりに勝手すぎるサークル内容に呆れる私。


「ねえ、和奈。このサークルさー…」


「だよねっ!? やっぱこのサークルにしてよかったぁ!!」


…そうですか……。


乗り気じゃない私をおいて、先輩は黙々と話を進めている。



「楽しみだね!優波」


和奈は本当に楽しそう。


「…そうだね」


「絶対来てよね!!約束したでしょ??」


「うん、行くよ。…絶対」


「よかった!」


観戦に行く日まで…


―――――あと3日…



「おい」


「はいっ?!」


急に肩をたたかれた私。


「お前、全然聞いてなかっただろ、話し」


振りかえると後ろには三浦がいた。


どうやら私の肩をたたいたのは三浦だったようだ。


「聞いてましたっ!!」


それだけ言うと私は部屋から出た。


…本当は聞いてなかったけど……。



まさか、これが私の運命を変えるとは思わなかった。


ちゃんと三浦に聞いていれば…


ちゃんと先輩の話しを聞いていたら…


私はこんなことにはならなかったのかもしれない。


こんなに、辛くて…


悲しい思いをしなくて良かったのかもしれない…。



「これで全員そろったな」


先輩が人数を数えてそう言った。


「優波がちゃんと来てくれてよかったよ!」


隣で和奈が言った。


「うん…。約束したしね??」


正直乗り気ではなかった。


でも、笑顔で嬉しそうにしてる和奈を見たら、来てよかったと思った。