忍が仕事へと行ってしまうと右京はその寂しさを稽古で紛らす。



イギリスでは休日に多少身体を動かしてはいたが、稽古らしい稽古はしていなかった。



だから帰国してからは師範との稽古が意外と楽しい。



師範は相変わらず強かったが、日本に居た頃のようにコテンパにされる事は無かった。



自分が腕を上げたのか、師範が老いたせいか…



だが、右京は師範と同等に渡り合えたのが素直に嬉しかった。



それは右京だけじゃないらしく、師範も満足そうに思えた。



午前中はそんな調子で一頻り汗をかき、午後は忍の母である叔母の買い物に付き合う。



叔母は買い物中、「私の事はお母さんって呼んで!」と繰り返していた。



右京は突然の叔母の言葉に戸惑っていたが、余りにしつこいので帰る頃には諦めて「母さん」と呼ぶ事にした。



…“母さん”なんて誰にも言った事ないかも…



そう考えると嬉しいような、恥ずかしような…なんとも言えない気持ちでちょっと胸が熱くなったのだった。