開国維新の洋魔戦記

葵は手代木の腕の中で正気を取り戻した。



奈津実が言った。



「これで、一安心ね。

あとは、体力を回復させればいいわね」



手代木が力強く言った。


「この勢いで、みんなでサタンをやっつけましょう」


奈津実が首を振った。


「まだ、無理ね。

霊力にスタミナが無いわ。

手代木さんも末永さんも憑き神を使いこなせていないのよ。

今も、奴らを追い返せたのは奇跡に近いわ」


末永が尋ねた。


「具体的に、どこが悪いんだ?」


奈津実が言った。


「憑き神の力を引き出せてないのよ。

もっと力強いし。

なんと言うか。

暴走の一歩手前まで力を引き出さないとダメなのよ。

やっぱり、体内に取り込んで闘うしかないのかしら」


手代木が訊いた。


「前にやっていた方法だろう。

危険だから止めろと言っていたじゃないか」


奈津実が答えた。


「力的にはその方が出せるのよ。

ただし、葵ちゃんがリリスに乗っ取られたように、体を憑き神に乗っ取られてしまうのよ。

だからあまり使いたく無い技なの」
手代木は言った。



「つまり、自分をしっかり持てと言うことなんだろう」



奈津美は頷いた。



「そう。

しっかりしていればいいのだけど、それが難しいのよ。

愛が必要なのよ」



末永が手代木と葵を見ながら言った。



「愛か。

誰かが気にかけてくれるということが大事なんだな」
田母神からの伝言を玲子の虫神が持って来た。


虫神は奈津美の耳の中に入っていった。



奈津美が手代木達に伝えた。



「官憲が兵部卿を反逆罪容疑で捕まえるのに、屋敷に向かっているから、このチャンスにサタンを封印するようにとのことよ。

手代木さんと末永さんはすぐに行って頂戴。

場所は虫神が案内するわ」



奈津美の耳の中から虫神が飛び出して、末永の耳の中に入った。



「手代木、俺について来い」



末永は憑き神のフスミからカラスの羽根をだした。



末永はその背中に乗って飛び立った。


手代木はスサノオを体内に取り込むと、その後を追いかけて行った。
体内にスサノオを取り込んだ手代木は、跳躍力がすごいので地上から追いかけているのだがフスミが空を飛ぶのにけっこう楽についていけた。



末永がその様子を見て言った。


「結構、やるじゃないか。

急ぐぞ」



フスミの飛行速度を上げた。



兵部卿の屋敷が見えて来た。



官憲達が屋敷を取り囲んで、突入する準備をしているのが見えた。



田母神もその中にいた。

田母神が壺を抱えながら言った。



「末永君、手代木君、二人とも来たか。

いよいよ、サタンの屋敷に突入するぞ。

サタンをこの壺に封印するのだ」



官憲が門から続々と入っていった。


田母神達も後に続いた。



中には堕天使達が居た。


堕天使は官憲を次々と倒していった。



官憲はその強さに尻込みしていった。



末永が言った。



「ひるむな。

それでも突撃隊か」



末永は先頭に立って、堕天使を倒していった。



手代木もスサノオを体外に出して実体化して堕天使と闘った。



二人の活躍で堕天使達はだんだん押されていった。

堕天使の後ろの方にいたリリスが声を上げていた。


「引くな。

相手は二人しかいないんだぞ」



兵部卿の体外に出ていたサタンも同じように叫んでいた。


しかし、堕天使達はだんだん数が少なくなっていた。


サタンは吼えた。



「クソッ

お前達の力をもらうぞ」



サタンが堕天使達をその体内にどんどん取り込んでいった。



近くにいたリリスも容赦なかった。



サタンは巨大化した。



霊力が半端では無くなった。



口から黒い火を吐いた。



スサノオは辛くも避けた。


黒い火がかかったところが炎を上げて燃えた。



末永が羽を出したフスミ神に乗りながら手代木に言った。



「俺は空から攻撃するから、お前は地上からやってくれ」



田母神もオオクニを実体化させていた。



「俺も攻撃するぞ」
サタンは飛び回るフスミ神に口から黒い火を吐きながら、足下から攻撃するスサノオやオオクニに蹴りを入れた。



スサノオとオオクニは蹴りで吹っ飛ばされた。



手代木は思った。


『強すぎる』



フスミ神も黒い炎を避けていたが、サタンの右手につかまってしまった。



手代木が叫んだ。



「フスミの実体化を解け」



末永は間一髪でつかまらずにすんだ。



サタンが笑いながら言った。



「お前達の力はこの程度か。

弱すぎるな」
手代木が田母神に訊いた。



「壺を使わないのか」



田母神は首を横に振った。


「サタンが大きくなりすぎているし、魔力がありすぎて封印できない」


手代木は言った。


「要するに、サタンを元の大きさにすればいいんだな」


田母神は頷いた。


手代木は末永に言った。


「サタンを小さくするぞ」


「どうやって」


「とにかく、手足をちぎってみたらどうだ」
手代木はスサノオを体内に入れた。


末永もフスミ神を体内に入れた。


二人の動きが速くなった。


手代木がサタンの右足を末永が左足を取った。


手代木と末永は又裂きの要領で左右に開いた。


サタンが股から二つに裂けていった。


「いいぞ」


田母神が応援した。


その瞬間、サタンが実体化を解いた。



手代木と末永は支えを失って、転がった。