手代木は二十日ぶりに東京に戻った。
妹を救出しなければならなかった。
『とりあえず、兵部省に行ってみるか』
手代木は兵部省の建物に向かった。
出入り口には、衛兵がいた。
手代木は、物陰からどんな人が出入りするか観察した。
軍服姿の軍人が多いが、時には民間人らしく人もいた。
『素知らぬ顔で入ってみるか』
手代木は堂々とした態度で、庁舎の正門入り口から中に入っていった。
衛兵からは何も咎められなかった。
廊下を進んで行くと扉に表示がある色々な部屋が両側に並んでいた。
『一体、どこにいるんだ?』
一階を巡り終わり、二階にいったが、妹が閉じ込められていそうな部屋は無かった。
二階も一通り歩き回り、三階に行くと人の通りが少なかった。
廊下を進んで行くと、警備兵に呼び止められた。
手代木がどこに行くかという質問に言いよどんでいると、別な警備兵が来た。
別な警備兵は警備隊長を呼んできた。
その顔を見たとき、手代木はハッとした。
妹を連れ去っていった奴だった。
手代木は警備兵を突き飛ばすと、逃げ出した。
「待てー」
警備兵が声を上げた。その後で笛を吹いた。
「不審者だ。
捕まえろ」
手代木は警備兵から逃げまわった。
妹をさらった警備隊長が憑き神の堕天使を出してきた。
実体化してないので、見えない者には見えなかいようで、また、人をすり抜けて手代木を追いかけてきた。
手代木は手短にあった廊下を曲がった。
暗い廊下だったが、構わずに進んでいった。
扉を開けて適当な部屋に入った。
部屋の中は薄暗かった。
隊長の声が聞こえた。
「まだ、庁内にいるはずだ。
徹底的に探せ。
いいか、見つけたら直ぐに俺に報告しろ」
堕天使が扉をスルーして入ってきた。
堕天使は辺りを見回して、手代木を見つけた。
隊長が扉を開けて入ってきた。
「何だ。
ここに居たのか、憑き神を出っぱなしにしていないから、見つけるのに手間取ったじゃないか。
隠せるとは少しは進歩したようだな」
隊長が笛を吹くと、警備兵が集まってきた。
窓らしきものの無く逃げ場が無かった。
手代木がスサノオを取り込んで、暴れようとした時、頭の中に声がした。
『そのまま、捕まりなさい』
『誰だ』
『いいから、捕まるのよ。
奴らの本拠地に連れていかれるから、暴れるのはそれからよ』
『分かった』
手代木は声の言うように素直に捕まった。
手代木は手に頑丈な手錠をかけられた。
警備隊長が言った。
「女を取り返しにでも来たのか」
警備隊長は手代木を窓の無い護送用の馬車に乗せた。
馬車は兵部省の外に出たようだがどこに行くかは分からなかった。
一時間位して馬車が止まった。
門が開く音が聞こえた。
また、馬車が動き始めた。
馬車が止まった。
後ろの扉が開いた。
開けたのは別な堕天使だった。
扉の外には、堕天使達がうろうろしていた。
屋敷を警備しているようだ。
警備隊長は、堕天使に手代木の縄を渡すと、いつもの牢に入れておくように命令した。
手代木が堕天使に引かれて歩いて行くと、先頭を歩いていた警備隊長が立ち止まった。
「そうだ。
妹、いや、リリス様に合わせてやろう。
これが見納めになるだろうからな」
警備隊長は部下の堕天使に牢に入れる前に謁見の間に連れていくように指示した。
手代木が謁見の間に着くと、ひざまづくように命じられた。
入場のトランペットがなった。
手代木の妹が出てきた。
警備隊長が手代木の横腹を蹴った。
「サタン様のお妃リリス様の前だぞ。
頭を下げていろ」
リリスは手代木を見て質問した。
「なんだ。
こいつは」
警備隊長が答えた。
「リリス様の宿主となったいる女の兄でございます」
「そうか。
殺してしまえ。
この女が霊力がなかなか強くて時々わらわを追い出そうとする。
身内の者が死ぬ様を見せつけておけば、わらわを追い出そうとする気も失せるだろう。
そうだ。
虎に喰われるのを見せてやれ」
警備隊長は言った。
「わかりました。
用意が整いますまでおまちください。
できましたらお呼びいたします」
リリスは席を離れた。
手代木も謁見の間から移動した。