距離にして1mもない。

道のど真ん中で尻餅をついているわたしと、わたしを見つめる真っ赤な二つの瞳。

「マア、立テヤ」

つい、「それ」が伸ばしてきた右腕(右前脚?)を、何の考えも無く掴んでしまった。

爪の長さに驚いて、一瞬手を引っ込めかけるが、遅かった。

温かくも、冷たくもない、すべすべでも、ざらざらでもない、奇妙な肌触りだった。

「ケツ冷エルダロ。シカモ、他ノ人間ニ、ジロジロ見ラレル」

ぐっ、とわたしの体が引き起こされた。

こんな小っちゃいイキモノに、思いがけない力が備わっている。わたしは再び、恐怖に固まってしまった。

そんなわたしに構わず、ぐいぐい引っ張っていこうとする。恐ろしい力だ。

「ど、どこに連れていくの……!」

やっと声が出た。随分掠れてはいたけれど。

「人目ニ付カネエ所。『咎送リ』ノ説明ヲ、シナキャナラネエカラナ。アァ、面倒クセエ」

わたしを見ることもなく、「それ」は答える。

「まって、そもそも、あ、あなたは、なに?」

こんな得体の知れないイキモノに手を引かれ、連れ去られるなんて。

学校は大嫌いだけど、この町も大嫌いだけど、今の状況に比べれば全然マシだ。

なんとかして手を振りほどいて、逃げ出そうと思っていた。このままじゃ確実に、命が危ない。

逃げなきゃ。逃げなきゃ。

そう思っていたけれど。

「それ」が言い放った一言で、わたしの脱走計画はきれいに消えて無くなってしまった。


「俺カ?俺ハ……、神様ダ」