「ただいま!」

跳ねるようにして家になだれ込む。

もう体は動かない。残り少ない栄養素を全て使い切ってしまった。

それでもよかった。

わたしを包み込む安堵感。

わたしの家は、消えてなかった。

よかった、ほんとうによかった。

はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。

わたしの、整わない呼吸が、家の中で反響する。


……ほかに、なんの、おともしない、せかい。


「リュウ君、どこー?」

……、……。

「……パ、パパー?」

……、……。

……、……。


弟の部屋に入る。誰もいない。部屋の中を見渡す。

机がない。漫画の山がない。ベットがない。テレビがない。テレビゲームがない。

父親の部屋に入る。誰もいない。部屋の中を見渡す。

机がない。本棚がない。布団がない。スーツ掛けがない。ひげそりがない。

リビングに入る。誰もいない。部屋の中を見渡す。

テレビがない。食器棚がない。冷蔵庫がない。テーブルがない。ソファがない。

キッチンに入る。誰もいない。

お風呂場に入る。誰もいない。

トイレに入る。誰もいない。

わたしの部屋に入る。


……除消が、いた。