わたしはまた部屋に戻って、充電中だったケータイを開いて、電話帳の「父親の会社」をだした。

とにかく、父親に電話して、何とかしてもらわないと。

「……、ただいま」

ドアの鍵が開けられる音、ドアが開く音、靴を脱ぐ音、そして、父親の声。

もう帰ってきたの?いつもより3時間は早い。まあ、会社に電話する手間は省けたけど。

リビングに下りて、父親の姿を見たら。

血の気が引いた。

父親は、泥まみれのコートを着て、ネクタイは外していて、目が血走っていて、息がきれぎれで、汗だくで、もう、誰だか分からない姿だった。


「……、仕事、クビになった」


父親が、何か、言った。

よく、聞こえなかった。

いや、聞こえてはいるんだけど。

意味が、よく、解らなくて。


「取引相手が……、会社の、重要な取引先が、倒産しちまったんだ。いきなり。俺は、そこの担当で、仕事が一気に減っちまって。最近、あっちもこっちも、潰れちまっているんだ。うちの会社も、危険な状態で、それで、人員整理が始まって、それで……」

ぼそぼそと、ぶつぶつと、父親の説明が続いて。

他の三人は、思考回路が停止してしまっていて。

重い、重い沈黙が、リビングの真ん中に深く、深く染み込んで。

不意に、母親が、つぶやいた。


「どうするのよ、これから」


その声は、酷く鋭くて、冷え冷えとしていて。いつもの雰囲気と違って。

「こんな田舎まで来たのに。来たくもない場所に、あなたの都合で連れてこられて。それで、仕事がない? ねえ、どうするのよ、これから!」

「俺が知るか!」

父親が怒鳴り返すと同時に、弟は自分の部屋へ避難した。

わたしも、ここにいないほうがいいかもしれない。

「だから嫌だったのよ、あたしは! はじめから、あなたが単身赴任すればよかったじゃない!」

「何だその言い草! 今まで食わせてきてやったのに、他に言うことないのか!」

わたしはリビングを出ようとして、ふと、振り返って。


ぎょっとした。