辻褄合わせの話を聞いてから、わたしは歯止めがきかなくなっていた。

目に留まるもの、気に入らないもの、片っ端から除消に消させていく。

消したものは「初めから無かったもの」になっていて。

存在そのものが、無かったことになってしまって。

自分が神様になったような錯覚。

もしかしたら、これは錯覚ではなくて現実?

わたしは今、この街を変えている。廃れた、活気のない街を変えている。

これを神の所業と言わずになんていうの?

わたしはこの町に来てから、顔を上げて、前を向いて歩くことが極端に減った。

でも今は違う。

わたしは自信に溢れ、前を見据え、堂々と道の真ん中を歩いていた。

ちょっと。わたしにぶつかったりしないでよ?

ぶつかったりしたら。


……消しちゃうから。


まずいと分かってはいても、一人でニヤけてしまう。

もちろん、人を消すなんて恐ろしくてできない。

これだけ物や建物を消していても、さすがにそれだけはできない。

でも、そんな「切り札」を持っているという安心感が、わたしの気を大きくしていた。

だから、またぶつかりそうになってしまった。

前から来た自転車に。……今回は前を見ていたけど。お互い、避けようとしなかったから。

「また、てめえか!」

何の因果か。自転車に乗っていたのは、朝、ぶつかりそうになったおじさんだった。

「……ごめんなさい」

一応、謝っておく。

そもそも、自転車は歩道じゃなく、車道を通らなきゃいけないのに。

しかも、相手が歩行者なんだから、そっちが避けなきゃいけないのに。

それでも、切り札を持っていることで、わたしは寛大になれた。

小さな、くだらない大人なんて、取るに足らない。

そんな、寛容な気持ちだったけど。