「…全く、寒々しい限りだ」


学校に向かったのだったが、アキが全然話しかけてくれない…。


それどころか、事あるごとに顔を背けて無視して何処かへ行ってしまう。


どうやら昨日の件をやたらと気にしているみたいだ。


そして、そのやり取りを見たクラスメートから非難の視線が無数に突き刺さる。


教室にいるのが居たたまれなくなった俺はその視線から逃げるため荷物を持ったまま屋上へと退避したのだが…。


「まだ10月なのに、なんでこんなに寒いんだよ…!?」


木枯らしの吹き荒れる中、体を小さく縮めて耐え忍ぶ。


一限目は、“清水の英文法”


タイミングが良いのか悪いのか、全く以て作為的なモノを感じやまない。


…何故、俺が清水の授業をサボるのか。


それを説明するならば、少しだけ昔話をしなければならない。


そう、あれは春―…。


…―ちょっとばかり立場が不安定な頃だった―…。




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「ねぇ、お醤油ないから買ってこい」


傍若無人極まりない口調の姉から、そう命令をされたのは既に夕暮れ時の事だった。


その頃の俺は中学校の卒業式を終えて、楽しみにはしてないが高校の入学式を待つ暇人、呼び方を変えればプータローだ。


テレビを観ていた俺は、…何故昼間言わなかったんだとツッコミを入れたのだが、返ってきたのは財布と材料が書かれた小さなメモ用紙だった。


その2つを顔面キャッチした俺は、仕方なくテレビを消して家を出るのだった。


あの“なんちゃって乙女”な姉の命令には逆らえない、…逆らったら明日の朝陽が拝めなくなるからな。


最初の呼び掛けが“オイ”じゃなかっただけマシと思おう…。


スーパーに向かう道すがら、投げつけられた小さなメモ用紙に目を通す。


・ジャガイモ
・豚肉
・タマネギ
・ニンジン
・醤油


…って醤油一番最後やないかーッ!


と言うよりそんなに材料がなかったのか我が家の冷蔵庫!!


現状に対してツッコミを入れてみたのだが、夕暮れ時に独りでは悲しいし危ない人でしかなかった。