私は確かに彼を「しゅうちゃん」と呼んだ。
この喉を震わせて、この少しだけ赤みがかった唇から。

彼は確かに私を「桜井」と呼んだ。
この耳たぶで拾った彼の声は鼓膜をはじかせて体内へ。




彼と出会ったのは去年の5月だった。
ゴールデンウィークも終わり、新学期にも慣れ始めたころ友達が飲み会を開いた。
友達とその友達の彼氏、そしてその友人、数名の小さな飲み会だった。
私は20歳で怖いもの知らず、人見知りもしなかった。
私の住んでいる街から少し外れた、もう県境の町まで小さな飲み会のためにバイト終わりに駆け付けたのだ。

私が居酒屋につくころには彼らは顔を赤く染め、「気分がよい」と言わんばかりのテンションで私を笑顔と生中で迎えてくれた。

「こんばんわ!」
出遅れまいと少し大きめの声であいさつをし、あいている席に座る。
メンバーはちょうど私を含めて5人だった。
友達カップル以外は知らない2人、男の子。
1人はチャラそうな苦手なタイプ、もう1人は大人っぽい雰囲気―――。

『こんばんわ』
4人はそう言い私にジョッキを持たせ、乾杯と言った。