「ちょっ、ちづ待って!俺を置いて先に行くとか普通にやめて!」

「あたしには関係ない」

「そんなぁ…。ねぇちづ!」


ほら、やっぱりフェイクだった。

歩く速度を上げて振り切ろうとすると遥の態度が急に変わり、とたんに口調も幼くなる。

胸に手を当てて「うっ…」なんて苦しむフリが、あたしに通用するとでも思っているのだろうか。


そういうところだけ妙に子どもというか、成長が止まっているというか…あ、甘え上手と言うのか。

まぁとにかく、うざったい。

けれど。


「はぁ…。じゃあ、ついてくるならあたしの半径3メートル以内には入ってこないで。約束」

「分かった♪」

「…」


結局はあたしのほうが折れて、遥の思い通りにさせてしまう。

こういうとき今一つ突き放しきれないのは、10年の間、積み重ねてきた“姉弟”としての気持ちからなのだろうと思う。

高校に入って2年目。

今年も相変わらずお門違いな嫌がらせの毎日でも、あたしは《佐山千鶴》で遥は《佐山遥》なのだ。

どうあがいたって“姉弟”という現実からは逃れられない。