「ま…待て、健太郎…」
俺は黙って、親父を睨み付けた。
それが精一杯の制御だった。
だが それは、長くは保てなかった。
「グッ…」
俺は、刀で親父を貫いていた。
まさに一瞬の出来事だった。
そして俺はゆっくりと、親父から刀を抜いた。
生暖かい朱の飛沫が俺を汚した。
「何故だ…
お前達の… 為に…」
朱く染まった親父は地に伏し、醜いヒトガタとなった。
俺は不意に、着物に着いた汚れに触れる。
俺の中にも半分通う、すれ違った朱い歪みの元。
直す術はあったのだろうか…
見上げた夜空には、今の光景に相応しくない程の月。
「鈴音…」
染まり切った刃を放り棄てて…
俺は、さっき走ってきた道をまた、走った。
愛する彼女の元へ。