それは、幼い健太郎の構って欲しい合図。


『どうしたんだい?』


と、声を掛けて筆を置いたら、健太郎はすぐに俺の隣へやってくる。


『俺、今日 道場の稽古で20人抜きしたんですよ!』


健太郎は、嬉しそうにその日その日の出来事を話す。


『よく頑張ったな、健太郎』

そう言って、俺は健太郎の頭を撫でてやる。

『うん!』

そうすると、健太郎は嬉しそうに笑う。

俺と同じく、健太郎も両親に構って貰えない。


だから、健太郎は俺の所へ来る。


俺は、祖父が亡くなった事で寂しさを知った。それ故に、健太郎には同じ思いをさせたくはなかった…。


だが、俺はそんな健太郎を置いてきた。
むしろ、捨ててきたに等しいだろう。


健太郎、こんな兄ですまない。
お前だけは 強く生きてくれ…。