なんだか様子が違う。

手元からどんどんチラシが減っていく。

(あれ?さっきは全然受け取ってくれなかったのに…)

人が行きかうどころか、僕の前に立ち止まっているようだ。

はっきりとはわからないが、若い女性の話声がどんどんと広がって行くような気がする。

悲鳴か?それとも歓声…

「ねえ、見てあの人、超イケメンやん。ミナミにこんな人いてたん?!」

「いや~!うちのタイプ。メアド教えてもらおうか…」

「芸能人?」

「写真撮りたいわ。腕組んで映してもらおう…」

(どうしたんだろう?
何があったんだろう?)

状況を全くわかっていないのは、僕だけだ。

いつしか手元のチラシが一枚もない。

それだけじゃない。

叫び声とともに無数の顔が、目の前に近づいてくる。

「握手して!」

「写真撮って~!」

「名前教えて!」

「このチラシ持って行ったら、いつでも会えるんですか?」

僕はやっとわかった。

(このTシャツ、そんなにカッコいいのかな~)

あの店のお姉さんに心から感謝した。