シーンとした廊下にさくらの声が響いた。

「・・・・知らなかった・・・カスミ・・・」

思い出せば気付ける要素はたくさんあったのに・・・。

カスミはいつも長袖を着ていた。たとえ真夏でも。何でと聞けば日焼けしたくないのと言っていた。

プールやお風呂を一緒に入った事もないし、時々顔色が悪い時もあった。

母が煩いからと遊んでいてもすぐに帰っていた。

・・・・何で気付かなかったのだろう。いつだって気付こうと思えば気付けたのに。華音たちは静かに泣き出す。

「いつも笑っていたから・・・・」

悩みなんてないと思っていた。辛い事なんて知らずに育ったのだと・・・。そんな風に思っていた自分たちは馬鹿だ。




そんな二人をゆらゆらと揺られながらカスミは見ていた。

二人のせいなんかではない。ただみんなといると幸せ過ぎて・・・そんなことも忘れられたのだ。

だから・・・お願い。私の為に泣かないで・・・。そう思った時、武が病院に着いたのが見えた。




どれだけ走ったか分からない。病院に着いた時には、武は汗にまみれていた。

カスミの病室に行くと・・・

-バチン-

「帰りなさいよ・・・」

華音がいきなり武の顔を叩いた。さくらも止めようとせず、冷たい目で見ている。

「帰って・・・帰ってよ・・・」

涙で真っ赤になった瞳は、怒りの色で満ちていた。

「許さない・・・絶対に許さない・・・帰って」

武のせいだけではない事を華音達は分かっている。けれど止められない・・・武のせいだけではないが、武が何も関わってないわけでもないからだ。