付き合って3年。カスミはキスまでは許すまでも、それ以上はさせなかった。

いや・・・できなかった。服を脱げば痣だらけの体がばれてしまうから・・・。

「そう・・・。分かった。私がタケちゃんに我慢ばかりさせたからだね・・」

そんな事が言いたかったわけじゃない武は慌てる。

「違う。俺が悪いよ・・・ごめん。今のは忘れて・・」

焦って言えばいう程、カスミの心は空っぽになっていく。

「良いの。もう。・・・タケちゃん。別れて下さい」

武が悪い。分かっている。だけど別れたくはなかった。

「ごめん。もうしないから・・・。別れるなんて言うなよ・・・」

後ろに浮気相手がいる事も忘れて武は取り乱しカスミに謝る。

3年間付き合った。それが電話で別れて終わるんだなと・・・カスミは辛いはずなのに、心はどこか冷めきって考えていた。

「タケちゃん。もう無理。気持ちは戻らない・・・。だから別れて下さい」

カスミの気持ちは変わらないだろうと武は悟った。どこかで・・・カスミは謝れば許してくれると思っていた自分の浅はかさが今は恨めしい。

それでも諦めきれない武は

「せめて会って話そう」

と懇願するが、カスミの答えは変わらない。

「会っても同じだから・・・ごめん。今までありがとう」

それだけ告げると、カスミは武の返事も聞かず電話を切った。しばらく武から電話がかかってきていたが、カスミが出る事はなかった。

何も考えられなかった。自分から別れたというのに・・・カスミはもう後悔している。

私には・・・何もない。

私を必要とする人は・・・もう誰もいない。

・・・・必要ないなら・・・消えればいい・・・


カスミは母に気付かれないよう家を飛び出し、辛い時いつも一人で来た海まで走る。

誰もいない夜の海は、カスミを呼んでいるようだった。

誰にも必要とされない自分を・・・海に入れば悲しみも苦しみも消えるのだろうか・・・


自分なんて消えてしまえば良い・・・そう思った。


カスミは靴を脱ぐと、海の方に歩き出した。