ヒロが逃げ出すより早くに、俺はヒロの足首を引っ掛けた。
「ぅわ!」と声を上げ、ヒロはあっけなく床に沈む。
倒れた拍子に床に背中を打ちつけたのだろう、
「痛っ……」と呻いてヒロは顔をしかめた。
暴れなければ必要最小限で済んだろうに、バカなヒロだぜ。
ヒロの顔に俺の影が落ち、ヒロは顔を引きつらせた。
――――
――
ヒロは―――、セックスに対して淡白な方だと思う。相手が男とかそうゆうのじゃなく、こいつはきっと女に対してもこんな風なんだろう。
だけどそれ以上に俺とのセックスがあまり好きじゃない様子。
理由は―――
「っぃて!」
ヒロの中に入れるとき、ヒロはいつも苦しそうに声を上げる。
ぎゅっと固く目を閉じ、酸素を求めるかのように口を開いて。
上から見ると、その表情でさえこっちを煽っているようにしか見えないけど、ヒロはきっと辛いんだろうな。
空調が利いて室内は適温なはずなのに、その滑らかな額に汗を浮かべている。
額に流れる前髪の先が汗で光ってきれいだった。
縋りつくように俺の腕を握ってくる力は結構なものだ。
苛めてやる―――と口で言ったものの、俺はそんなつもり毛頭ない。
俺はヒロに傷つけるようなことはしたことないし(多少強引だけど)したくもない。いつでもヒロを可愛がってるつもりだ(心から♪)
「ヒロ。力抜け。いい子だから……」
苦しそうに表情を歪めるヒロの頬や額にそっと触れ、宥めるように口付けを落とすと、
「ぅー…」と小さく唸り声を上げて、
熱のこもった腕を俺の首に巻きつけてくる。
「……3.14159 26535 89793 23846……」
まるで暗号めいた…呪文のような言葉を俺の耳元で囁いて。