塩田さんは残念そうにしていたが、俺がまだ比奈のことを引きずっていると思ったのか、それ以上しつこくは誘ってこずに、


「比奈ねぇ。友達のこと悪く言うのもあれだけど、彼女結構裏があると思うよ。主任人がいいから、あの子に騙されないといいけど」


なんて苦笑して去っていった。




裏―――……？




もしかしたら塩田さんは、比奈と守川がデキていたことを知っていたのだろうか……


俺が二股かけられていたことに気付いていたのだろうか。


でもそれとはまた違うニュアンスに聞こえた。


俺は塩田さんが残していった謎の言葉を気に掛けつつも、それからまた数週間が経ったそんなある日、



またも比奈と偶然エレベーターに居合わせた。


俺は定時後の休憩でコーヒーでも買いに一階の自販機に行く途中で、比奈は帰るところだった。


最近では比奈の顔を見ても、なんとも思わなくなった。


ただの同僚―――そんな関係になれる日が意外に早かったことに俺自身驚いてはいたが、それはそれでいい傾向だったのかもしれない。


「一階でいい？」先にエレベーターに乗っていた俺が、後から滑り込んできた比奈に聞いた。


「………うん…」比奈は気まずそうに俯いて答える。


今日は周の部屋に行く約束をしている。


って言うか約束なんてしてないけど、何となく火、木はあいつの部屋に行くことになっていた。


最近では俺たちはセックスをしなくても、酒を飲んでくだらないことで笑いあえたりしている。


体を重ねなくても―――あいつの香りを感じることはできるし、


何も語らなくても、あいつは持ち前のペースで俺の沈んだ気持ちを浮上させてくれる。


そんな日常が―――




今は心地良い。