その日、公平が仕事から帰ったのは珍しく午後10時を過ぎた頃だった。


しかし公平にとっては朝4時まで撮影がある日より長くて疲れた一日となったことは間違いない。


リビングのソファーに座るも落ち着かず、公平はベランダに出ると煙草に火をつけた。


悠果里は大の煙草嫌いで、悠果里と付き合ってからはあまり煙草を吸っていなかった公平。


煙草を口にくわえると少しむせた。


「弱くなったもんだな...お前が煙草嫌いって言うから煙草吸わないようにしてたんだぜ...」


公平の脳裏には付き合いたての頃、公平のヘビースモーカーぶりが原因で悠果里と喧嘩をした記憶がよみがえっていた。


しばらくベランダで煙草を吸っているとポケットに入れていた携帯が震えた。


普段は携帯なんて鞄に放置しているが、今日だけは悠果里から連絡がくるかもしれないと思い、肌身離さず持っていたのだ。


あわててポケットから携帯を取出し、画面を見ると、藤田からの着信だった。


「はい。」


「公平、お前いまどこにいる?」


「家ですけど...」


「今から俺が言う店に来い。話がある。」


「わかりました。」


電話を切った公平はジャージから洒落たデニムとロングTシャツに着替え、コートを羽織るとサングラスをかけて自宅を後にした。