「嫌だ・・・・嫌だよ・・・・逃げたい・・・」

華音の答えが初めから彼女には分かっていたのだろう。

「やっぱり。かのちゃん・・・ここに来る時誰に会ったと思う?」

楽しそうに彼女が訪ねる。

誰に会ったと思うと聞かれても華音には全く分からない。式を挙げる事はみんな知っているが、来る人はいないだろう。

「大地君・・・って言うんだね。何年も会ってなかったから、かのちゃんの彼氏知らなかった」

昔は何でも話してたのにね。と笑う彼女の言葉を華音は最後まで聞いていなかった。

「大地・・・が来てくれてる・・・・?」

華音の結婚が決まり、無理やり親に別れさせられた大好きだった人。もう二度と会えないと思っていたのに・・・華音の頬に涙が伝う。

「かのちゃん・・・今は泣く時じゃないのよ?時間がないの。良い?今から私が言う道を、振り返らずにひたすら走って。何が聞こえてきても・・・走り抜けるの」

迷っている時間はなかった。もう少しすればさすがに田山が見に来る。

華音は最後に一度彼女を抱きしめお礼を言うと、靴を脱ぎ捨てた。

走り出す華音の背中に声がかかる。

「かのちゃん・・・全て終わったら会いに来て。・・・かのちゃんがよく言ってた。私の花を持って会いに来て」

彼女の花・・・。その言葉だけで、どの花をさしているのかが分かる。華音は大きく頷くと今度こそ走り出した。