「もう桜の季節なのね・・・」

声に出すつもりはなかったが出ていたようだ。

メイクをしていた田山が頷き笑いかけてくる。

「そうですよ。新婚生活も桜の様に満開になると良いですね?」

事情を知らない田山。悪気がないのは華音にも十分分かっているが、その問いかけに返す気にはなれなかった。

新婚生活は満開どころか、華音の中では最初から散っている。

親が会社の為に連れてきた結婚相手は、人形のように表情の変わらない冷たい男だった。

見合いの席で二人になった時

「会社の為跡継ぎを産んでくれれば、後は好きなようにしてくれてかまいませんので。干渉するのは辞めましょう」

と言い放つような男だ。華音を愛することはないだろうし、華音が愛することもないだろう。

そんな男と知っていて嫁がせる親の為に、華音は今日結婚する。乾いた笑いしかでてこない。

反対に、昔から華音の事に関心のなかった両親は、今日を迎えられて大喜びしていた。

あんな親の為には泣かないと決めていたのに、涙が浮かんでくる。

田山にばれないよう下を向き、涙を拭おうとした時・・・・。