母の口数が減った。
減ったというより上手く喋れなくなった。
時々意味不明な事を言ったりする。
でも耳はしっかり聞こえるから話掛けると頷く。
寝たきりになった母の足はむくんで象のようになり、踵には褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれのような赤く皮膚がめくれ上がったようなものが出来て、それがシーツや布団に触れると「痛い!」と大騒ぎした。
背中も痛いようで父や兄がくる度体勢を変えてもらいながらマッサージをしてもらっていた。
あたしには母の体勢を変える力がないから看護士に頼むしかない。
容態が悪くなってから母はワガママになった。
すぐにナースコールを押して、「痛い」だの「嫌だ」だのと不満を言っていた。
母が人生で一番ワガママ勝手になった瞬間だった。
いつだって誰かの為に自分の事を後回しにして生きてきたから。
そして食事や水を飲むだけで嘔吐を繰り返し、段々と体力が落ちて点滴に頼るしかなくなっていった。