──デイトリアは高い岩山の出っ張りから壮大な森林を眺めていた。
肌寒い風が彼の髪をゆるやかになびかせる。
この世界を支配するにあたり、邪魔な人類を排除する目的である魔物にとって、自然というものにはさしたる興味はないのだろう。
「勇介が出るのか」
最後まで分かり合えなかったな。
ぼそりとつぶやき、岩肌を覆い尽くす雪を見つめて眉を寄せる。
魔王は以前に渡したペンダントで総攻撃の旨をデイトリアに伝えてきた。
それでも従う事は出来ないとかつての青年にそう返すと、その声は少し憂いを帯びていたようにも感じられたがそのまま気配は消えてしまった。
背後にそびえ立つ山々は緑を見下ろして悠然とそこに有り、雪の白さはデイトリアの姿を鮮明に浮き立たせる。