「仕方ありません。すがれるものが欲しいのでしょう」

 今の人間界に絶望し、新しい宗教を興して彼を神格化している集団がいくつか出来ていた。

 終わりのない不安と恐怖に、いくばくかの希望を見い出すそうとする──それがデイトリアスという存在に向けられている。

「こっちは逆だな」

 テーブルに置かれた書類を手にして久住は眉を寄せる。

「何かを傷つけて行進することこそが、人である証を捨てているのだと気がつかない」

 キャステルは憂いに深い溜息をこぼす。

 彼を魔物の仲間だと騒ぎ立て、討伐しようと呼びかける暴動が各地で起きていた。

 確固たる敵を作ることによっても、抱く不安や恐怖は軽減される。