「―――…おっとすんません。って、秋本じゃねえか。何してるんだ、こんなところで」

 
 

夕月夜。
 

近所を歩いていた秋本は、曲がり角で偶然にも同級生にぶつかりそうになる。


危うく自転車に轢かれそうになったが、相手が咄嗟の判断でブレーキを掛けてくれたために大事には至らなかった。

「危ないじゃない」

事故を起こしそうになった同級生の遠藤に毒づく。
事故を起こしたら完全に非は自転車にある、とお小言を垂れてみせる。
 

悪びれた様子もなく、ハイハイと聞き流す遠藤は何しているのだと質問を飛ばしてきた。


その様子だと家に帰ってないんじゃないか、遠藤の指摘に秋本は決まり悪く顔を顰める。


錆が目立つハンドルに肘を置く遠藤を流し目にし、「多分あんたと一緒」素っ気無く返事した。

間を置いて、「そっか」遠藤は泣き笑いを浮かべる。


訪れる沈黙。
それが嫌で、秋本はそこまで一緒に歩かないかと誘った。


気分的に人と会話したかったのだ。
 

乗ってくれる遠藤はわざわざチャリから降りて、自分と歩調を合わせてくれた。
 

「何処に行く予定だったんだ?」「気の向くままよ」「なんじゃそりゃ」「あんたこそ予定は?」「んー気分のまま」「一緒じゃない」


簡単な会話を交わして歩道を歩く。

車道を荒々しく過ぎ去るトラックを脇目に、遠藤は苦し紛れに笑って呟いた。

「何処に行ったんだろうな」と。


それが分からないから警察も手を焼いているのだと返す秋本も、表情は彼と同じだった。


本当に何処へ行ってしまったのだろうか、今話題の生徒は。