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2011年の夜空にぽっかりと浮かぶ半月は優しい色を放っていた。
1996年の夜空に浮かんでいた月もこんな色をしていただろうか。
うん、きっと放っていたに違いない。
だってあの空に浮かぶ月は、遙か昔から地球を見守っている衛星なのだから。
それこそ人間が原始人だった時代から見守っていただろう。
月にとっちゃ15年なんて月日、爪先くらいの時間帯なんだろうな。
先に校舎を出て夜空を見上げていた俺は、視線を戻し、そしてそのまま下に流す。
左足先から膝にかけて半透明になっている俺の体。まんま幽霊になった気分で、心情は複雑。
どうせなら両足が透けてくれたら気分も、少しはマシだったかもしれない。
目前の現実はジワジワと時に侵食されている気分に陥る。
例えるなら、そうだな。時という名の毒に足が侵されている、みたいな?
敢えて、その足を見なかったことにした俺は頭の後ろで腕を組み、秋本が来るのを待つ。
彼女には駐車場前で待っていると告げているから、もう来る頃だろう。
俺は校舎に寄り掛かり、敷き詰められている砂利をザクザクと爪先で蹴飛ばして暇を弄ばせる。
程なくして彼女が姿を現した。
半端幽霊少年を目にして、なんとも言えない表情を浮かべている。
嗚呼困った。
俺もなんとも言えない表情でしか彼女を迎えられない。
静寂というよりは沈黙が似つかわしい、この空気。先に空気を裂いてくれるのはいつも秋本からだ。
「しょうが焼きにでもするか」
今晩の献立を口にしてくる彼女は、俺の大好物を作ってやると明るく笑った。
嬉しい申し出だけど、俺は帰れない。
もう彼女の部屋には帰れない。帰るつもりもない。
俺が此処で秋本を待っていたのは、ちゃんとお別れを言うためだ。