それから俺はどれほど眠っていたのか分からない。
射すような夕陽の眩しさ、擽ってくる風のさざめきで何度か意識が浮上することはあったけど、その夢の中のぬくもりが心地良くて沈潜。深いふかい眠りについた。
眠りに底があるとしたら、俺は眠りの奥底で身を丸めて眠っていたに違いない。
ゆらり、ゆらり。
ゆらり、ゆらり。
ゆらり、ゆらり。
まるで揺りかごのような、優しい揺れの時間の中で俺は眠り続けた。
ただひたすらに眠り続けた。
夢は見ていない。
真っ白な空間とでもいえる夢の中で、貪るように眠っていた。
厄日から逃避したい一心で。
起きる契機を掴んだのは肌寒さからだった。
今まであたたかかった空気に陰りが射したような、急な冷え込みを感じて俺は目が覚めた。
重たい瞼を持ち上げた先に待っていたのは、真っ暗な神社。
朦朧とする意識が覚醒するまで、暫し時間が掛かったわけだけど、此処が家ではなく神社だということを思い出して俺は飛び起きた。
その拍子に体にのっていた落ち葉が数枚、地面に滑り落ちる。
だけど些細な事を気にする余裕のない俺は、「やっべぇ」どんくらい寝ちまったんだろう、と慌てふためいた。
静まり返っている神社は本当に真っ暗で、微かに本殿や狛犬があるんだって分かる程度。
とっくに日は暮れてしまったようだ。
「一時間居座るつもりがっ、うっわぁ暗っ。今何時だろう? 早く帰らないと親にシメられる」
どんなに親同士が喧嘩をしても、門限は煩いんだよな。
急いで立ち上がった俺は制服についた土埃を払うと、通学鞄を肩に掛けて駆け出した。
「お邪魔しました!」鳥居を潜る際、神社の神様に挨拶。
平坦な石段を下って家路を走った。