いいからいいから、俺は秋本の背中を押して彼女の担当クラスに向かう。

秋本の言うように教室には錠が下ろされていた。


15年経った今も戸締り方法だけは変わってないんだな。

けど大抵、サボり癖のある奴は後ろのドアの鍵をわざと開けていたりするんだよな。俺もよくしていたし。
 

「ん?」後ろのドアを開けようとした俺は眉を寄せる。開いてねぇ。なんだよ、真面目ちゃんクラスか? シケたクラスだな。
 

だけど諦めの悪い俺は上の窓が開いていることに気付いて、悪知恵を働かせた。


秋本が止める間もなく俺は窓によじのぼって、開きっ放しの窓から侵入。

後ろのドアの鍵を解除して、「侵入成功」と彼女に一笑する。

呆れも通り越しているのか、秋本は肩を竦めるだけで何も言わない。


早く済ませてよ、とだけお言葉を頂戴する。

周囲を気にしているのは俺がいつ見つかるかと、不安があるからだろう。


彼女を中に招いて、教室に入った俺は久々の光景に興奮。

電気を点けたかったけど、止められたからそのまま教室に突撃。


教卓に触って、黒板に触れて、チョークでちょい落書きして、誰とも知らない席についてみる。

机上の表面を撫でて一笑。この感触、マジで懐かしい。此処で勉強してたんだよな、俺。



あ、そういえば俺、ちっとも勉強してないけど大丈夫かな。一応受験生なんだけど。

 
上体を机に預けて俺は頬を崩す。

2011年を彷徨う亡霊から普通の学生に戻った気分だ。教室がこんなにも心地良いなんて思いもしなかったよ。


「なあ秋本、なんの教科を教えてるんだ?」


そのままの状態で秋本にクエッション。

教卓前に立つ秋本は数学と素っ気無く答えた。

「そっか」んじゃお前に教えてもらいたいな、だって俺、わりと数学は好きだから。


頬杖を付いて彼女に微笑む。
まだ怒っているのか、それともガキだと呆れてくれているのか、秋本は息をつくだけ。

なんだよ、教わりたいって言ってやってるのに可愛くないな。

ぶう垂れた顔で異議申し立てすれば、

「あんたみたいな生徒はいらないわよ」

もっと可愛くないことを言われた。


このアラサー、人の好意は素直に受け止めろって。